世界の伝統医療・補完療法とホメオパシー ― 制度と利用の世界地図【2026年版】

本レポートは、世界各国におけるホメオパシーを含む伝統医療・補完療法の利用状況・制度・市場規模に関する公開データを、日本語で網羅的に整理したものです。個別の療法の効果・効能について評価・主張するものではありません。各数値は出典を明記し、政府・国際機関の一次資料(A)、査読付き学術論文(B)、業界団体・民間調査(C)を区別して引用しています。

発行:株式会社プランメンタル ライフジャンプ/監修・執筆:代表取締役・クラシカルホメオパス 世良純子

発行にあたって

日本では、ホメオパシーは中身を知られる前に「怪しい」と決めつけられがちです。私自身、この仕事で独立した当時、ネットで検索して出てきたのは偏見と誹謗中傷にまみれた情報ばかりで、たいへん驚きました。ところが、イギリス、フランス、ベルギー、ギリシアなどを旅すると、レメディーは薬局に当たり前のように並び、ホメオパシーは人々の生活に息づいています。日本の業界に問題が全くないとは申しません。それでも、一方的に否定するのも、反対に妄信して極端な医療否定・薬否定に陥るのも、どちらも偏った見方だと私は考えています。賛成の方にも反対の方にも、まず「世界で実際に何が起きているか」という事実を見ていただきたい——それが、このレポートを発行した理由です。

要約 ― この5つの事実

  1. WHO(世界保健機関)は2025年5月の世界保健総会で「世界伝統医学戦略2025–2034」を採択。伝統医療・補完療法のエビデンス強化と安全な制度統合が、今後10年の世界的課題として公式に位置づけられました。
  2. インドには伝統医療を管轄する省庁(AYUSH省)があり、登録ホメオパシー医は約24万人、大学レベルの教育機関が196校あります。
  3. スイスは2009年の国民投票(賛成約3分の2)で補完医療を憲法に明記し、2017年からクラシカルホメオパシーを含む4分野が強制加入の基礎保険でカバーされています。
  4. 一方、イギリス(2018年)とフランス(2021年)は公費負担を終了ドイツも2026年7月の法改正により2027年1月から法定保険の適用外となります。科学的根拠が不十分というのが各国の公式判断で、制度判断は分かれています。
  5. 世界市場規模は調査会社により2025年推計54億〜155億ドルと幅がありますが、いずれも成長市場と予測されています。

第1章 WHOと伝統医療 ― 世界の公式な位置づけ

2025年5月26日、第78回世界保健総会(WHA78)において、WHO加盟国は「世界伝統医学戦略2025–2034(Global Traditional Medicine Strategy 2025–2034)」に合意しました。2年間にわたる世界・地域協議で、加盟国・先住民代表・関係機関から1,200件を超えるコメントが寄せられた末の採択です。

戦略は伝統医療・補完・統合医療(TCIM)について、(1)エビデンス(科学的根拠)の強化、(2)安全性・品質の確保と規制整備、(3)適切な場合の医療制度への統合、(4)分野横断的な価値の最適化、という4つの目標を掲げています。

重要なのは、この戦略が特定の療法を推奨するものではなく、「世界で現実に広く使われている以上、放置せず、エビデンスと規制の枠組みに乗せる」という方針だという点です。国連の報道も「伝統医療の利用はいまや世界的な現実」と表現しています。

第2章 世界の利用者数 ― どれだけの人が使っているのか

査読付き研究による堅い数字

英シェフィールド大学のReltonらが2017年に発表した系統的レビュー(11か国・36調査を統合)によると、次のとおりです。

  • 過去12か月にホメオパスによる施術を受けた成人:中央値 1.5%(国・調査により0.2〜8.2%)
  • 市販レメディー購入を含む12か月利用率:中央値 3.9%(0.7〜9.8%)
  • 利用率が最も高かったのは、基礎保険でカバーされているスイス
  • 米・英・豪・加の利用率は、1986〜2012年の調査期間を通じて安定
  • 対象11か国には日本も含まれる(米・英・豪・イスラエル・加・スイス・ノルウェー・独・韓・日・シンガポール)

業界団体による推計

英国のホメオパシー研究所(HRI)は「世界で2億人以上が定期的に利用」「EU市民の29%(約1億人)が日常的ヘルスケアでホメオパシー製品を利用」「欧州42か国中40か国で実践されている」と集計しています。ただしこれは推進団体による推計であり、上記の学術データより高い数字が出やすい点に留意が必要です。

現場からの一言

私のクライアントに限らず、日本でホメオパシーに興味を持ち始めるきっかけとして多いと感じるのは、子育て中のお母さんです。お子さんが病気になったとき、「もっと自然な方法で赤ちゃんをケアできないだろうか」と考えたことが入り口になる——この道20年・延べ4,000件以上のご相談のなかで、そうした方を数多く見てきました。また、海外在住の日本人の方から多くのご相談をいただいてきました。海外ではホメオパシーが生活に根づいた選択肢として受け止められており、「どうせなら同じ日本人のホメオパスに相談したい」と私を探してくださる方が少なくありません。対照的に日本では、ご本人は信頼して使っているのに、周囲に伝えると宗教のように扱われてしまうため、使っていること自体を隠さざるを得ない——そんな葛藤を抱える方が多いように感じます。

第3章 インド ― 世界最大の制度化国家

インドは世界で最も大規模にホメオパシーを制度化している国です。

  • AYUSH省:アーユルヴェーダ・ヨガ・ユナニ・シッダ・ホメオパシーを管轄する専門省庁(2014年11月発足)
  • 登録ホメオパシー医:約24万6,000人(2010年時点。推計には6万4,000〜30万人の幅がある)
  • 教育機関:ホメオパシー系カレッジ196校(学位課程)
  • 公的医療施設:政府系ホメオパシー診療所 約7,500か所、病院307か所

第4章 スイス ― 国民投票で憲法に入った国

スイスの経緯は、補完医療をめぐる先進国の制度議論として最も注目される事例です。

できごと
1999年ホメオパシー等5療法を基礎保険に暫定収載。
2005年有効性の科学的証明が不十分として収載除外。
2009年5月17日国民投票で約3分の2が賛成し、補完医療の考慮を定める憲法118a条が成立。
2012年4療法を期限付きで基礎保険に再収載。
2017年6月連邦内務省が恒久収載を決定。
2017年8月1日クラシカルホメオパシー・アントロポゾフィー医学・中医学・植物療法の4分野が基礎保険(強制加入)の正式給付対象に。

条件は、スイス医師会(FMH)認定の追加資格を持つ医師が行う場合に限られます。つまり「医師の追加専門技能」として制度に組み込まれた形です。

ヨーロッパ、インド、日本 ― ホメオパスの立場の違い

私はIACH(国際クラシカルホメオパシーアカデミー)ギリシア本校の日本校を卒業しました。そのご縁から感じるのは、国によるホメオパスの立場の違いです。インドのホメオパスは制度に組み込まれ、社会的にも認められた存在。ヨーロッパのホメオパスは、自分の仕事に確信を持ちながらも、社会に完全には認められないプレッシャーの中で働いているように見えます。そして日本のホメオパスは、その比ではない強い偏見の中で仕事をしています。ギリシアを訪れた際、薬局の店頭でレメディーがごく当たり前の商品として並び、店員が日用品のように案内していたことに驚きました。日本の中だけにいると、見え方はどうしても偏ってしまうのではないでしょうか。

第5章 ヨーロッパ主要国 ― 分かれる制度判断

フランス ― 高い利用率と、公費負担の終了が併存

  • 調査会社Ipsosの2023年調査では、回答者の68%が過去1年にホメオパシー製剤を1回以上使用したと回答。
  • 一方、政府は科学的評価(高等保健機構HASの勧告)に基づき、健康保険の償還率を2020年に30%→15%へ引き下げ、2021年1月に全廃
  • 全廃前の2018年時点の年間償還総額は約1億2,680万ユーロだった。

ドイツ ― 任意給付として存続してきたが、2027年に法定保険から除外へ

  • 2014年の調査では国民の約60%がホメオパシーを試したことがあると回答し、欧州でも特に普及度が高い。約70%の法定保険組合が何らかの形でカバーしてきており、市場規模は約6億700万ユーロ(2022年、うちセルフメディケーション5億3,400万ユーロ)。
  • 2003年の法改正で法定保険の標準給付からは除外(12歳未満の児童等への適用は継続)。ただし多くの保険組合が任意追加給付(Satzungsleistung)として償還を継続し、加入者獲得の競争材料になってきた。
  • 2021年の法定保険による関連支出は約2,200万ユーロ。2017年時点で医薬品販売数量の2.74%をホメオパシー製剤が占めた。
  • 2024年1月、当時の保健相が任意給付からの除外方針を表明したが、同年3月の法案からは削除。継続を求める約20万人の市民請願が連邦議会で審議され、2025年にはいったん任意給付としての継続が確認された。
  • しかし2026年、医療費抑制を目的とする法改正が4月に閣議決定され、同年7月10日に連邦議会が可決(賛成319・反対286)。2027年1月1日から、ホメオパシー・アントロポゾフィー医学は任意給付を含めて法定保険の給付対象から完全に除外される

イギリス ― NHSの公費処方は終了

  • NHSイングランドは2017年11月30日、費用対効果とエビデンス不足を理由にホメオパシー処方停止を勧告。2018年に高等法院がこの決定を支持し、公費による処方は終了した。
  • NHS公式サイトは現在も「重大な健康状態の治療として推奨しない」と明記している。
<出典>NHS: Homeopathy

第6章 中南米・その他の統合事例

  • メキシコ:1895年8月10日、ディアス大統領令によりホメオパシーを公式承認した世界初の国。現在も国立の学位課程が存在し、公的医療制度に組み込まれている。
  • ブラジル:2006年、国家統合補完医療政策(PNPIC)を公布し、国民皆保険制度SUS(無料の公的医療)の中でホメオパシーを提供。

第7章 世界市場規模

世界のホメオパシー製品市場の2025年推計は、調査会社により54億ドル〜155億ドルと大きな幅があります(市場の定義・調査手法の違いによる)。いずれの調査会社も年率3.6〜13%程度の成長を予測しています。

<出典>Mordor IntelligencePrecedence ResearchTechnavio(いずれもレンジ提示)

第8章 日本の現在地

日本には、ホメオパシーを含む補完療法の制度上の位置づけ・国の統計が存在しません。第2章の国際レビューには日本の調査も含まれていますが、国内で継続的に利用実態を測定した公的データはないのが現状です。

世界では、WHOが10年戦略を採択し、制度化する国(インド・スイス・ブラジル・メキシコ)と公費負担を終了する国(イギリス・フランス・ドイツ)に判断が分かれながらも、「実態を測定し、規制の枠組みで扱う」方向に進んでいます。実態データそのものが存在しない日本は、議論の前提を欠いているといえます。本レポートはその空白を埋める第一歩として、今後も更新を続けていきます。

おわりに ― 読者のみなさまへ

西洋医学は悪ではありません。そして、ホメオパシーも中身を見る前に「悪」と決めつけてしまうには、もったいない存在だと私は思っています。かつてテレビで、アメリカの医療現場が手術や投薬と並行してアロマテラピーなどを取り入れ、チーム全員で「どうすれば患者さんがより良くなるか」を議論する姿を見て、深く感動したことがあります。日本では、ホメオパシーという単語が出るだけで拒絶されることが少なくありません。私自身、初めてブログを立ち上げたとき、わずか4記事目で多くの誹謗中傷を受けました。ホメオパシーを信頼しない方がいるのは構いませんし、どんな意見もあってよいと思います。ただ、賛成にせよ反対にせよ、決めつけの前に、まず事実を知っていただきたいのです。未来の子どもたちを含むすべての日本人が、健康のためにより多くの選択肢を持てる社会へ、日本が少しずつ進んでいくことを切に願っています。

本レポートは出典明記のうえ自由に引用可能です。引用の際は「株式会社プランメンタル ライフジャンプ『世界の伝統医療・補完療法とホメオパシー 2026年版』」と本ページへのリンクをお願いします。

初版:2026年8月 最終更新:2026年8月(ドイツ2026年法改正を反映)